雉(キジ)の剥製 1

父は昔、猟が趣味だった

母が言うには冷蔵庫には時たま鹿肉やらが入ってたらしく
「悪趣味」

実家にもたくさん剥製があった

イタチ



鹿



猪なんて頭だけ


実家は狭く事務所にしてたガレージで離婚後は寝てたが

夜中のトイレの度にその猪の首の飾ってある玄関を通らないと

いけなかった

目はガラス玉にしてあるが、それと合わないように

いつもそっぽ向いてトイレに行ってた

私も父のこの趣味はいただけないと思ってた

何より動物が可哀想だった

遊園地での射的が上手いのは素直に楽しんでたが

やっぱり嫌だった

随分してから父はそれらを引き取った


でも何故か雉だけは置いてあった

それを母はお金に困った時に知り合いに頼んで

10000円で引き取ってもらった

そのお宅は凄くお金持ちと思った

訪ねた時に弟と絵を描かせてもらったが

大きな庭には彫刻も飾られていた


私はいくつだったか忘れたが離婚してそんなに年数は

経ってなかったと思う

阪急沿線の駅の名前も覚えていたし、そこから歩いてすぐの

線路沿いのその家の場所もだいたい覚えていた


雉を引き取ってもらったことを父との面会時に話してしまった

父は
「あれはお父ちゃんの大切なもんなんや」

と凄く残念そうだった


どういう経緯で父からその話を持ちかけられたかは覚えてないが

私だけ一緒に付いてきてと言われた

弟は
「まだ小さいからお母ちゃんに話してバレたら困るから」

と言われたが、母に嘘をつくのがとても怖かった

父に話してしまったことも罪悪感

母を騙して
「雉を取り返しに行く」

のも罪悪感

板挟み

かなり苦しかった

弟は
「何でねーちゃんだけやねん。ぼくも行きたい」

と泣いた

大和川で遊ぶと嘘をついて私と父はそのお宅に行った


父は事情を話して雉を取り戻し、とても満足していた

私はとても複雑だった

いつ母にバレるだろう

「絶対お母ちゃんには言うたらアカン」

と言う父の言葉を守れるだろうか?

とてもとても重苦しかった

思い出す度しんどかった


(続く)